医療機器製造業界は、診断、治療、手術、検査、リハビリ、在宅医療など、医療現場を支える重要な産業です。高齢化や医療技術の高度化、低侵襲治療やデジタルヘルスの普及を背景に、国内外で市場の拡大が続いています。
一方で、医療機器は患者の生命・健康に関わるため、薬機法、QMS、承認・認証・届出、臨床評価、保険適用、海外規制などへの対応が欠かせません。そのため、M&Aでは単なる製造設備や販路の取得だけでなく、薬事対応力、品質保証体制、知的財産、開発力の見極めが重要になります。
このページでは、医療機器製造業界におけるM&A事例や動向を紹介し、成功のポイントについて解説します。
医療機器製造業界は、診断・治療・予防・身体機能の補助などに用いられる医療機器を開発・製造する産業です。代表的な製品には、内視鏡、カテーテル、ステント、人工関節、手術器具、画像診断装置、検査機器、歯科・眼科機器、在宅医療機器、医療機器プログラムなどがあります。
PMDAによると、医療機器は患者へのリスクに応じてクラスIからクラスIVに分類されます。一般医療機器は届出、管理医療機器は第三者認証機関による認証、高度管理医療機器は厚生労働大臣の承認が必要となる場合があります。
厚生労働省の「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」によると、2024年の医療機器の国内生産金額は2兆6,642億円、国内出荷金額は4兆7,195億円、輸出金額は1兆1,445億円でした。国内需要の大きさに加え、グローバル展開の余地も大きい業界といえます。
医療機器製造業界でM&Aを行うメリットは、技術、製品ポートフォリオ、薬事承認、販売網、品質保証体制を短期間で獲得できる点です。医療機器は開発から承認・販売までに時間がかかるため、既に製品化・承認取得・販売実績を持つ企業を買収することで、新規参入よりも早く市場へ展開できます。
また、低侵襲治療機器、手術支援機器、医療機器プログラム、在宅医療機器など成長分野の技術を取り込むことで、既存事業とのシナジーを生み出せます。海外メーカーの買収では、現地の薬事対応、販売チャネル、医療機関との関係を獲得できるため、グローバル展開を加速できます。
中小の医療機器・部材メーカーにとっては、後継者不足の解決や、品質保証・開発投資を継続するための資本力確保という意味でもM&Aが有効です。
医療機器製造業界のM&Aには、薬事・品質・製造責任に関するリスクがあります。買収対象企業が保有する承認・認証・届出、QMS体制、製造所登録、製品不具合情報、回収履歴、苦情対応体制などを十分に確認しなければ、買収後に想定外の対応コストが発生する可能性があります。
また、医療機器は製品ライフサイクルが長く、販売後も安全管理、保守、改良、行政対応が続きます。海外企業を買収する場合は、FDA、CE、MDRなど各国規制への対応や、現地販売体制の維持も課題になります。
さらに、医療現場との信頼関係や医師・技師からの評価が売上に影響するため、M&A後に営業・サポート体制を急に変更すると、既存顧客の不安につながることがあります。
オリンパスは、韓国のTaewoong Medical社の買収を完了しました。Taewoong Medical社は、消化器用メタリックステントなどの消化器科処置具を開発・製造する企業で、胆道、食道、大腸、十二指腸などの治療に用いられる製品を提供しています。
オリンパスは、同社をセラピューティック・ソリューションズ領域に迎え入れることで、消化器科処置具の製品ポートフォリオを強化しました。内視鏡診断だけでなく、低侵襲治療まで含めた包括的なソリューション提供を目指すM&A事例です。
テルモは、英国のOrganOx社の全株式を取得し、完全子会社化しました。OrganOx社は、移植用臓器の保存デバイスを製造・販売する企業です。取得価額は約15億米ドルで、2025年10月29日付で取得が完了しました。
テルモは本買収を通じて臓器移植関連分野へ参入し、中長期的な成長を牽引する新たな事業の確立を目指しています。既存の医療機器事業に加えて、新たな治療領域を取り込む大型M&Aの事例です。
NISSHAは、ベトナム・ホーチミン市のUSM HEALTHCARE MEDICAL DEVICES FACTORY JOINT STOCK COMPANYの株式60%を取得し、子会社化することを決定しました。USM Healthcareは、循環器科向けステントや整形外科向け機器などの製造・販売を行う医療機器メーカーです。
NISSHAは、医療機器CDMO事業の拡大を進めており、本件によりアジア地域で新たな医療機器製造基盤を獲得する狙いです。設計・開発・製造・品質マネジメントの知見を活用し、東南アジアでの医療機器CDMO事業を拡大するクロスボーダーM&Aの事例です。
高齢化の進行により、循環器、消化器、整形外科、脳神経外科、在宅医療などの分野で医療機器需要が拡大しています。特に、患者負担を抑える低侵襲治療機器や、手術時間短縮・治療精度向上に貢献する製品は、成長性の高い領域です。
そのため、既存メーカーが特定治療領域に強いメーカーを買収し、製品ラインアップを補完するM&Aが増えています。承認済み製品や医療現場での実績を持つ企業は、買い手にとって高い価値を持ちます。
医療機器開発では、設計、試作、薬事対応、量産、品質保証まで一貫して対応できる製造パートナーの重要性が高まっています。特に、カテーテル、手術器具、センサー、ディスポーザブル製品などでは、精密加工やクリーン環境での組立技術が必要です。
大手メーカーや異業種企業が医療機器CDMOを買収することで、製造能力や品質マネジメントを取り込み、開発から量産までのスピードを高める動きが見られます。
医療機器市場はグローバルに展開しやすい一方で、国・地域ごとに薬事規制、保険制度、販売チャネル、医療機関との関係性が異なります。そのため、海外メーカーや現地販売会社を買収し、規制対応力や顧客基盤を獲得するM&Aが重要になっています。
特に米国、欧州、東南アジアでは、医療機器の市場拡大や現地生産ニーズを背景に、技術・製造・販売網を同時に取得するM&Aが注目されています。
医療機器製造業界では、財務デューデリジェンスだけでなく、薬事・品質保証・安全管理の確認が欠かせません。承認・認証・届出の状況、QMS適合性、製造所登録、苦情処理、不具合報告、回収履歴、変更管理の運用状況を事前に確認することで、買収後のリスクを抑えられます。
医療機器は販売後も長期間にわたり、保守、修理、部品供給、添付文書管理、安全性情報の収集などが必要です。M&Aでは、既存製品のライフサイクル、改良計画、製造終了予定、保守契約、顧客対応体制を確認し、買収後も安定して供給できるかを見極めることが重要です。
医療機器は、医師、看護師、技師、病院購買部門、販売代理店との関係が売上に直結します。買収後に営業担当やサポート窓口を急に変更すると、現場に不安を与える可能性があります。既存の担当者や販売網を活かしながら、段階的に統合を進めることが成功のポイントです。
2026年3月5日、ナカニシは、連結子会社であるNSK America Corp.を通じて、米国のAcra Cut, Inc.およびIntech, Inc.の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。
Acra Cutは、脳神経外科手術における頭蓋骨穿孔・開頭領域で使用される自動停止機能付き頭蓋骨穿孔器を製造・販売する企業です。Intechは、機械加工および成型部品の製造を行い、高品質な外科用手術器具の供給を支えています。
ナカニシは、外科事業を歯科事業に次ぐ柱へ育成する方針のもと、本件M&Aにより製品ポートフォリオの拡充と北米市場での製造能力獲得を目指しています。医療機器製造業界では、専門性の高い製品技術と製造基盤を同時に取り込むM&Aが今後も重要になると考えられます。
参照元:日本M&Aセンター「ナカニシ、米国の医療器メーカー2社を子会社化」
まず、対象企業の製品領域、薬事承認、品質保証体制、製造設備、販売チャネル、主要顧客、知的財産、人材構成を確認します。そのうえで、M&Aの目的が新製品獲得なのか、製造能力強化なのか、海外展開なのか、事業承継なのかを明確にしましょう。
候補企業を選ぶ際は、製品ポートフォリオの補完性、薬事・品質体制、販売網、医療現場での評価、研究開発力を重視します。医療機器は機密情報や規制情報が多いため、交渉段階から情報開示範囲や秘密保持を慎重に設計する必要があります。
契約締結後は、品質保証、安全管理、薬事、製造、販売、保守サービスの統合を段階的に進めます。既存製品の供給責任を果たすため、買収直後は大きな体制変更を避け、顧客対応と製品供給の安定を優先することが大切です。
医療機器製造業界のM&A価格は、企業規模、収益力、承認済み製品、知的財産、販売網、品質保証体制、海外展開力によって大きく変動します。中小の医療機器部材・製造受託企業では数億円規模の案件が見られる一方、独自製品や承認済み製品を持つ企業、グローバル販売網を持つ企業では数十億円から数百億円規模、場合によってはそれ以上の大型案件となることもあります。
評価方法としては、営業利益やEBITDAを基準にした倍率法、将来キャッシュフローを基にしたDCF法、知的財産や製品パイプラインを考慮した評価などが用いられます。ただし、医療機器製造業界では、単年度の利益だけでなく、薬事承認、臨床的価値、製品ライフサイクル、規制対応力が企業価値に大きく影響します。
費用としては、M&A仲介会社やFAへの報酬、弁護士・会計士費用、薬事・品質デューデリジェンス費用、知財調査費用、契約書作成費用、PMI費用が発生します。海外企業の買収では、現地法務、税務、規制対応、翻訳、統合管理にかかる費用も見込む必要があります。
医療機器製造業界では、設備や売上だけでなく、薬事承認、QMS、安全管理、監査対応の実績が企業価値を左右します。買収前には、対象企業が継続的に規制対応できる体制を持っているかを確認することが重要です。
医療機器は、開発して終わりではなく、製造、販売、保守、安全性情報の収集まで継続的な対応が必要です。M&A後の統合では、研究開発部門だけでなく、製造、品質保証、営業、サービス部門まで含めた一体的な運営体制を整えましょう。
医療機器製造業界のM&Aでは、薬機法、QMS、知的財産、海外規制、保険制度、製造責任など、専門的な確認項目が多くなります。医療機器業界に詳しいM&A仲介会社、FA、弁護士、会計士、薬事コンサルタントを活用することで、リスクを抑えながら条件交渉や統合を進めやすくなります。
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