周知の通り、特に日本の製造業では後継者不在が大きな社会問題。後継者がいないという理由だけで、黒字経営にもかかわらず廃業を選択する企業も少なくありません。特に中小製造業では、技術や設備、人材などの経営資源が企業の価値そのものを構成しています。これを失うことは社会的にも大きな損失となるでしょう。
このような状況下で注目されている解決手法が、M&Aによる「経営資源の外部承継」。親族や社内に後継者がいない場合でも、第三者が事業を引き継ぐことで、企業の価値を次世代へつなぐ方法です。単なる売却ではなく、事業・雇用・技術などの重要な資源の維持、そして発展を前提とした前向きな承継となります。
製造業における事業の核心は、「技術」「人材」「設備」という3つの経営資源。これらは単体では意味を成さず、現場の知見や企業文化と組み合わさる形で機能しています。
M&Aを通じた承継では、これら3つの経営資源を一体として次の担い手に引き渡すことが可能。たとえば熟練職人の技術を知る若手人材の雇用を維持しるる設備ごと引き継ぐことで、事業の再現性が保たれる形となります。譲受企業が持つ新たな販路や資金力と融合すれば、既存技術を活かした事業拡大も期待できるでしょう。
M&Aによる経営資源承継では、従業員の雇用を守りながら事業を継続できるという大きなメリットがあります。とくに製造業では、長年培われた技能や現場のノウハウが人材に根付いているため、これを丸ごと引き継げる点は極めて重要です。
廃業による雇用喪失や取引停止のリスクを回避できることは、従業員や取引先、地域経済にとっても安心材料。経営者としての「事業を残す」選択は、自社と買手企業のみならず、取引先や地域社会からの納得感も得られやすい決断と言えるでしょう。
M&Aによって経営資源を承継した後は、両社の業務・文化を融合させる統合作業(PMI)へと移ります。
ただし製造業では、現場のオペレーションや判断基準が企業ごとに異なることから、買手企業との様々なギャップが顕在化しやすいもの。技術者の価値観、品質へのこだわり、組織構造の違いが、スムーズなPMIを妨げることも少なくありません。
迅速なPMIの実現を目指すためには、事前に経営資源の棚卸しを行い、両社で詳細な統合計画を策定することが不可欠。また買手企業は、譲渡企業のキーパーソンとの信頼関係づくりも不可欠。抜け、漏れのない統合の準備を事前に進めておくことがスムーズな引継ぎへとつながります。
認可保育園、清掃業務、マンション管理、情報サービスなどを展開する都内中小企業4社。いずれも年商数億~10数億円、業歴30年以上の堅実な企業ながら、親族内に後継者が不在という共通の課題を抱えていました。
事業会社への売却には慎重だった各経営者が選んだのは、東京都が出資する事業承継ファンド「TOKYOファンド」。雇用継続や社内外の理解、さらなる成長路線といった承継の「3要件」を満たせるファンドとして経営者たちは注目しました。
ファンドが外部から新社長を招聘するなどし、業務体制を再構築。株式・経営・資産を円滑に引き継ぎつつ、各社は社員と共に「第二の創業」へと歩み始めました。
参照元:東京商工会議所公式HP(https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_jirei2/)
後継者不在により廃業を視野に入れていた樹脂製品製造会社。高品質な加工技術を保有していたものの、廃業による取引先や従業員の処遇が懸念されている状態でした。
地元金融機関と事業承継・M&A補助金事務局が連携し、売手支援型スキームを実行。企業の強みを再整理し、買手候補とのマッチングを丁寧に支援しました。
買手企業が技術と設備を受け継ぎ、従業員も全員雇用継続。譲渡側の経営者も納得できる形でM&Aが成立し、地域産業の持続にもつながりました。
参照元:事業承継・M&A補助金事務局公式HP(https://jsh.go.jp/case-study/k-shigen/)
製造業におけるM&Aは、単なる会社の売買ではありません。技術、人材、設備などの大切な経営資源を未来につなぐための、次の経営者へのバトン渡しです。
バトン渡しを成功させることで、従業員の雇用や取引先の事業が守られることに加え、地域経済の安定や社会的資産の維持にもつながります。経営者の最後の責任として、できる限り廃業という選択肢を避け、M&Aによる経営資源の継承も1つの選択肢として考えるべきでしょう。
適切な相手と出会って円滑に統合を進めれば、事業は新たな価値を生み出しながら継続可能となります。後継者不在により風前の灯火ともなりつつあった企業は、M&Aにより逆に「攻め」の企業体質へと一変するかもしれません。
このサイトでは製造業のM&Aの成約実例が豊富な、製造業に強い企業をピックアップ。その中で、「シナジー効果の高いM&A」「後継者不足をスピーディーに解決するM&A」「グローバル戦略としてのM&A」とそれぞれの目的にあった仲介業者をご紹介します。